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小さな挑戦、始まる

北の大地から 2016/05/07(土) 09:31
完成した「ながまれ号」車両デザイン 完成した「ながまれ号」車両デザイン

みなさん、こんにちは。敷村です。私が住んでいる函館は、ちょうどゴールデンウィークが桜の季節と重なります。まだ少し肌寒いくらいの気温ですが、桜をはじめ春の花が一気に咲き出して、自然のエネルギーを感じる一番好きな時期ですね。

さて、函館は今年の春、ついに「北海道新幹線」が開業しました。北海道では悲願の新幹線開業だったので大変な盛り上がりで、この連休も多くの観光客が新幹 線に乗って函館にやってきてくれました。私も数年前にこの北海道新幹線に関わる仕事をしていました。開業日もここ函館にいたわけですが、新幹線の仕事では ありません。実は北海道新幹線が開業した3月26日、もう一つの鉄道が開業したのをご存じでしょうか。

「道南いさりび鉄道」という営業キロが40kmにも満たない小さな鉄道会社です。北海道新幹線や北陸・九州新幹線などは「整備新幹線」と呼ばれ、新幹線に並行して走っている在来線は、地元自治体の同意を条件にJRから経営を切り離し、第三セクター鉄道会社を設立、その経営を引き継いで存続しています。新幹線ができるためこれまで運行していた特急列車はなくなり、普通列車のみの地方ローカル線として厳しい経営となる場合が多く、道南いさりび鉄道も当初から赤字経営となる計画でスタートしました。

予算も必要最小限の規模とし、運行する車両も国鉄時代に新製された車歴が30年以上経つ、中古のディーゼルカーです。新幹線の陰に隠れて、地味な存在になりがちですが、安全運行を第一として準備を進めつつ、地元住民の足として認めてもらい、存在感がなければいけないということで、社名を全国から公募したり様々工夫をしました。

私の担当する業務の中で、車両があるのですが、せめて車両デザインくらい何かできないか?という要望がありました。最近は有名デザイナーが独創的な観光列車を設計し、人気を得ていますが、今回は新しい車両を1両製作するどころか前述した古い車両で改造する予算も、著名デザイナーを起用する余裕もありません。

いろいろ考えて、何とか地元の力でデザインを進められないか?という方針で進めることにしました。当地函館には、当然車両をデザインしたことのあるインダストリアルデザイナーはいませんが、優れたグラフィックデザイナーや建築家は何人もいますし、何より地元の魅力を体感で熟知しているという強みがあります。これをデザインに展開できれば!?と思い、「デザインの地産地消」というコンセプトを掲げてデザインワークを進めることにしました。

実際進めてみると、やはり鉄道車両のデザインというのは困難の連続です。観光列車のように専用車両ではないこと、公共物としてのバランス、車両が古いことによる素材(鉄)の考慮、鉄道車両構造に求められる使用する塗料やシールの不燃性、この先数年を考えたメンテナンスコストなど、様々な要素と限られた予算と時間の制約は予想以上の難しさでした。

何度か断念に追い込まれるピンチに見舞われましたが、何とか当初掲げたコンセプト「デザインの地産地消」を貫き、道南いさりび鉄道のささやかなフラッグシップ車両(笑)「ながまれ号」という車両を開業に間に合わせることができました。

車両の詳しい紹介は以下のリンクをご覧ください。
http://www.shr-isaribi.jp/nagamare/

今回ご紹介した車両のデザインは、小さな挑戦のスタートに過ぎません。国は「地方創成」を政策の大きなテーマとして掲げていますが、実際にコトを起こして持続させていくのは容易なことではありません。ここ函館でも人口流出が進み、新幹線が開業したとは言え、東京までは4時間以上かかり、劇的なアドバンテージがあるとは言えません。地域の生活を支える鉄道会社という場を通じて、地域の価値向上にどういうアプローチで寄与していくべきか。答えのない問いに取り組んでいく一つのきっかけであると思っています。今回取り組んだデザインワークは、まず地元の人たちとのものづくりを通して、その大切さを身にしみて感じたということが、自分にとっては最も大きい収穫だったと思います。