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CMNニュース 若年キャリアの躓き問題

新しいコミュニティの構築を目指して 2015/10/03(土) 13:21

前回のCMNニュースでは、わが国の若者の初期的段階でのキャリアの躓きは、「就活」というシステムに起因している部分が多い事を紹介した。今回は、そこで躓いた人達のその後はどうなるか考えてみたい。

 大卒の就職難は景気変動によってこれまでも何回かあり、たとえば古くはオイルショックのあった1973年の2年後(就職は2年後に影響する)も急激に落ち込んだが、当時はアルバイトで雇われ正社員に登用されるとか、景気回復期に大量採用があったとか、どこかで吸収されそれほど深刻な問題にはならなかった。

 しかし、2000年代に入ってからは大卒時点で就活に失敗すると、そのまま正社員の道がなくなってしまう可能性が高くなった。実際に大学卒業時に正社員になれなかった人は毎年平均10万人出ているが、中年フリーターもこの15年で150万人増えている。

 その背景には、派遣社員やアウトソーシングといった昔はなかった業務遂行の手段ができた事も影響している。代替手段があるので正社員として雇わなくても当面は困らないのだ。むしろ、雇ってしまったから困るという場合もあり、正社員でなければならない人数はほとんどの業界で減っている。

 また、国内は高齢化かつ人口減少局面に入っており、多くの市場が縮小傾向にある。たとえば、フードビジネスは日本国の総胃袋が縮小するのだから厳しい。しかし、海外に目を向ければ「日本食」の広大な市場が広がっている。こうなれば、企業の投資は国内より海外に向く。ここ数年を見ると、全産業平均で国内投資の割合は20~30%しかない。そうなれば海外で直接雇用するか、海外要員として国内でも留学生等外国人を雇用するケースが増えている。

 もちろんキャリアを考える上で、サラリーマンだけが唯一の道ではないし、ライフスタイルから考えて正社員でなければいけないこともない。キャリアには様々な選択肢があるのだから正社員以外の道を選べばいいのだが、少なくとも現在の日本においては就活に失敗して正社員になれなかった場合、非常に大きなハンディを背負うことになると言わざるを得ない。

 一つは賃金格差だ。年収ガイド(http://www.nenshuu.net/)によれば、正規社員と非正規社員では生涯年収で約2倍の差があるという。

雇用形態別年収推移

 

 二つ目に、当然のことながら非正規では雇用が安定していない。そのために正社員と非正規では婚姻率にもハッキリとした差が出ている。

 三つ目に、正規社員と非正規社員では、企業内で受ける教育訓練の質と量が全く違う。教育訓練にかける一人あたりのコストも違うし、OJTといわれる上司による部下の指導・育成があるが、この内容が全く違う。非正規社員にも教えなければできない業務は教えるが、当面やらせる業務以外を教える事はない。たとえば高度な判断を含む業務や、社内外の調整を含むリーダーシップ、イノベーティブな要素のある業務等はまず教えない。非正規社員にそのような仕事は与えないからだ。

 実はこの三つ目の格差が長期に見れば一番致命的だ。いくら仕事をしても労働力としての市場価値が高まらないのだ。

 これからコンピューターに取って代わられる仕事も多いだろう。Googleのラリー・ページ氏によれば9割は代替されるそうだが、それは極端としても急速に食われていくのは間違いないだろう。そうなったときに残る仕事は、人間的感性やクリエイティビティを要求されるもの、対人関係を含むもの、複合的な判断業務、前例のないことに対する対処等だが、その多くは非正規では身につかない。

そして、日本の学校教育は大学に至るまで(医学部など一部を除けば)、職業教育をその責任範囲と考えていないので、大学を卒業しただけでは基礎的な職業能力はほとんどなにも身についていない。

もし基礎的職業能力がしっかりしていれば、何か専門性を磨けば正社員でなくてもフリーランスという道も、起業という道も十分考えられるのだが、基礎的職業教育を受けていないままフリーランスでは、発注者である企業側がビジネスの相手として認めてくれない。まして起業となるとその成長段階毎にハードルがあり、やはり仕事の基礎的な事がわかっていないと厳しい問題に直面する。

毎年10万人近い大卒の需給ギャップがあるとするならば、その10万人分は構造的に非正規雇用にならざるを得ないとしても、その10万人の非正規社員が、いつかは正社員になるチャンスを掴めるか、あるいは正社員ではなくても同等の報酬を得てフリーで活躍できる様になるための能力開発支援が必要だ。

キャリアメンターネットワークの出発点における最も大きな問題意識は、このキャリアの初期的段階での躓きが、生涯を決定づけてしまうような事になってはいけないというものだった。彼らが本来持っているポテンシャルが発揮できないとすれば、本人が不幸なだけでなく社会的損失だ。

この問題の解決には、まずは彼らに、これからの経済社会で求められる職業能力の開発をすることが必須だということまではわかっている。それがどのような形で実現できるかは我々の挑戦であり、またこの取り組みに皆様方の共感・協力が得られるかどうかにかかっている。

 

 

堀口卓志

人と組織の問題に30年以上関わってきましたが悩みがつきません。
マネジメントセオリーの多くは 未だに 半世紀以上も前の米国の研究に依拠しておりますが、インターネット以降それらが次々と破壊されてきた感があります。
科学技術のめざましい発展に比べればこれは当たり前のことかもしれません。
私自身も含む旧世代は過去の知識に過度に依存せず、評論をするのではなく、自らが変化にチャレンジすることによって解決の道筋が見つかると考えています。