Alexが働く飲食店では現場のマネジャーがさっそく全社員に業務連絡。「シンガポール人は必ず投票しなければなりません。その日勤務シフトに入っているシンガポール人は、投票に行く時間を調整し、前後は業務に戻るようにしてください」と指示を出す。一方、投票権がない外国人従業員は、祝日が増えてハッピームードに包まれています。
メディアやフェイスブックなどでは、「今回こそ政権交代」と言わんばかりの情報が流れていましたが、ふたを開ければ2001年以来の圧倒的多数で与党の勝利。
小さな島国の運営は、政権交代で政治がモタモタするのは命取り。ひとつのシンガポールとして、現実を的確にとらえて素早く動く(人選や意思決定を間違えた時は、すぐに軌道修正する)機動力を止めてはならない。結果は89議席中83議席を与党が獲得。個人的に「この国の近未来はまだ安心」と思えた日でもありました。
(写真はチャンネルニュースアジアWebsiteより転用)
(写真はチャンネルニュースアジアWebsiteより転用)
さて、時事情報で前置きが長くなりました。
本日は、昇格によって力を発揮したインド系スタッフと、昇格によって迷走した中華系スタッフの事例をご紹介しようと思います。
中華系のスタッフは、上司の退職により昇格。愛嬌があり実務能力は高いものの、考える仕事は向いていない。「あの人はダメだ、自分だってできるんだ」と強く上司の退職を願い、悪口を言ってはばからなかった。「そうは言うけど、あなたがトップの立場になったら、できないことがたくさんあると思うよ。彼の仕事内容をもう少し理解してほしい」と諭していたものの、目の上のタンコブが去って上機嫌。残念ながら、このスタッフをトップにするには時期尚早だったのですが、他に誰もいなかったので、仕方がありません。「あれもできます、これもできます、なんでも話し合って解決します」。昇格したての自己認知は全知全能の26歳。大幅昇給もしたものの、やはり、すぐに「自分には無理」と訴えて来て、それ以降は「自分はこれだけ残業をした」「休日も仕事をしているので、働いた時間を買い取ってほしい」「自分の有給休暇の残り日数」など、個人の権利が主な関心ごと。本人が働き始めたのは18歳の時なので、すでに社会人8年生。
与えられた業務上の役割を「できない。ほかの人に代わってくれ」と泣いて投げ出し、状況が落ち着くと「あの役割を私にやらせてほしい」と言う。自分のパフォーマンスをよそに「会社から自分は何を得られるか」を考えはじめた時点で、チームに良い影響を与えない存在。本人は退職を考えているだろうし、会社としても継続の意思を確認すべき段階に入った。急に仕事に張り切ったり、実行できなくて投げ出して人のせいにする。最近は体調不良で頻繁に休む。夜中に(見せる必要もない)汚物の写真を携帯に送って「こんなに大変」とアピールするのは、心のバランスも崩れてきたサイン。会社では、役割を変えてストレスをなくし、人材を投入して負荷を減らしているのに、なぜか(不必要に)自分ひとりが辛い目にあうシフトを組むので、「なんだかおかしいね」とささやき合う。
こうチグハグになってくると、本人が生きやすい場所にリリースしてあげたほうが健康的。シンガポールでは、雇用契約に基づき簡単に雇用契約を解除することができる。(解雇も簡単)。穏やかに進めたいAlexは、本人から退職届を受け取ることを好むので、来週、個人ミーティングをして、そろそろ目途をつけなければなりません。
一方、昇格によってモチベーションが上がったのは、インド系スタッフ。採用時「日本人はインド系がキライだと思っていたから、採用されてびっくりした」「私はいつか責任者になりたい」と語った彼女と一緒に働いて約1年半。仕事は良いのですが、休暇で旅行に行ったあとは、必ず病欠で2~3日休みを取る癖が、唯一「この人は無責任かもしれない」という不安をぬぐいきれない理由だった。
昇格の直前、今年も彼女は10日間の休暇を申請していたので、正直に不安をぶつけることにした。「ご存知の通り、次の店舗の責任者を決めるのですが、あなたを第一候補として考えています。でも、あなたはいつも休暇の後、体調が悪いと言って、2~3日病欠し、電話も通じなくなる。唯一、その点がひっかかって、私は自信をもって意思決定ができない。だから今回の休暇は、予定された通りに仕事に戻ってほしい」
そして11日後( ̄― ̄)ニヤリと彼女は仕事に戻ってきた。「私は約束を守る人間だと、行動をもって証明する」と頑張っている。
満を持して、約束通りに彼女は責任者になりました。同時に大幅昇給。書面を取り交わした時、彼女は大きな目をさらに見開いて「私は必ず、全力を尽くして働きます。本当に、本当に、絶対に約束する」と繰り返した。帰宅しても興奮さめやらない様子。「私のことを認めてくれて、ありがとうございます」と、携帯にメッセージが届いた。
「さてどうでしょう?」うがって見たAlexの期待は裏切られました。
彼女はまるで水を得た魚のように伸び伸びとチームを取り仕切り、抜けた穴は進んで埋めており、知らないことはどんどん理解しようと積極的。微細なことではトップマネジメントに心配をかけないよう配慮もする。いつも一番に仕事を終わらせようとするので、他のチームリーダーと健全な競争意識も生み出している。こうなってくると、彼女への信頼感も増す。自律的に働ける人に、細かい管理は不要。仕事の自由度を増やすと、彼女はますます活き活きとしてきた。
採用した瞬間は、正直、相手のことが良く分かりません。実際のキャリアの分岐点は、共に働き、仕事のパフォーマンスを通して理解が深まり、チャンスが来たときにつかめる準備ができていれば、扉は開かれていく例が、今回のインド系スタッフ。こんな素敵なスタッフと働けることは、私の生活の甘いスパイス。
余談ですが、昇格に伴う給料の話。
中華系スタッフ(26歳)は約8万円アップ。
インド系スタッフ(33歳)約5万円アップ。現地でも相当な給料アップです。
しかも、昇給後の給与は2人とも同額。
給料がたくさん上がった若者のほうが不満が多く、仕事もできない結果となっています。
給料って、適切な人に適切に払わなければなりませんね。
努力は当たり前。人生何事も運と縁
そんなAlexは、最近良い意味でモンスター扱い。化け物級に対応できる仕事の幅が広く、多方面から「あの人がいるからこの会社は大丈夫」と信頼を頂いているのだとか。
ポジティブに捉えていただいている間は、まだまだ私も今の環境で成長できそうです。ありがたく、そして謙虚に、日々切磋琢磨して楽しく仕事を頑張ります。