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年頭所感  ー 今日的社会のセイフティ・ネットを考える ー

理事長ブログ 2015/01/08(木) 12:41
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例年、新年のトレンドが新聞紙上やテレビで話題になる。今年はそのなかで、健康という言葉が出てくる頻度がかなり多かった。高齢化社会がいよいよ現実のも のとなって、QOL(Quality of Life)、すなわち、「生活の質」あるいは「いのちの質」をどのように維持・向上させるか、われわれ自身があらためて考えなければならない時代になった といえる。

QOLは「生活機能」の程度に依存するといってもよい。生活機能モデル(WHO・国際生活機能分類、2001)によれば、「生活機能」とは、生命レベル、個人レベル、社会レベルの三つのレベルにおける機能に分けられる。生命レベルとは、『心身機能や構造』であり、心と体の働きや体の部分の機能のことである。個人レベルとは、『活動』のことであり、生活行為つまり身の回り行為や、家事、外出、スポーツや仕事のときの動作等のさまざまな生活行為のことである。この『活動』の総和が「生活の活発さ」を表す。社会レベルとは、『参加』のことであり、組織のなかでの役割や仕事、コミュニティや地域社会における役割などの機能である。この「生活機能」と相互に影響したり作用するのが、「健康状態」と「背景因子」の二つの要因である。「健康状態」とは、病気・外傷の有無やそれらの程度のことである。「背景因子」とは、物的、人的、社会制度的な環境のような環境因子と、年齢、性別、ライフスタイル、価値観などの個人因子の二つの因子によって構成される。

 われわれは病気・けがなどの「健康状態」が原因となって『心身機能』の低下が起こり、それが『活動』の低下を起こし、そしてそれが『参加』の低下を起こすというように考えがちである。しかし、最近の研究では、あくまでも生活機能の一部である『活動』の低下によって、他のレベル、つまり『心身機能』や『参加』の低下が起こること、そしてこのような『活動』や『参加』の低下が、生活をますます不活発にし、ますます「心身機能」を低下させること、そして、これらが一旦起こると「悪循環」を起こして進行していくことが明らかにされている。

 この『活動』の低下は、たとえば「卒業」「転居」「解雇」「退職」「一人暮らしになる」「失業」「災害」といった人的・社会的な環境因子の変化が契機となるといわれている。こうした症状は高齢者に多くみられることから、最近では「生活不活発病」として注目されている。生活不活発病の研究では、どのようにすれば『活動』・『参加』の向上・充実が実現できるのかという技法やプログラムを工夫すること、そして生活不活発病の予防・改善は本来、当事者と専門家との二人三脚・共同作業で進めるべきであることが強調されている。これらの研究が「生活機能」の重視という考え方を強調している点が注目される。

 大切なことは、現代社会においては、このような人的・社会的な環境因子の変化は高齢者だけではなく、現代社会に生きるわれわれすべてに生じうる変化だという点である。これらの変化はますます大きくかつ複雑で予測が困難なものになっているだけに、それらが個人に与える衝撃度はますます大きなものとなっている。その意味で、上に述べた生活不活発病の予防・改善には『活動』『参加』を中心とした生活機能への働きかけが不可欠であるという指摘は示唆的である。つまり、何らかの環境因子の変化や衝撃によって『活動』が低下することは人間としては自然な反応である。しかし、それによって、他のレベル、つまり『心身機能』や『参加』の低下が起こり、それが生活をますます不活発にし、さらに「心身機能」を低下させるという「悪循環」を起こして進行するということをわれわれ自身が認識しておくことが必要である。その上で『活動』の低下がもたらす「悪循環」を断ち切るだけでなく、それらを予防し改善するための社会的セイフティ・ネットとしての場づくりが必要である。つまり、当事者と二人三脚・共同作業を進めることができる専門家のネットワークと、彼らとの対面的なコミュニケーションが可能な「『活動』と『参加』の場」を実現することが必要である。

 

最終修正日 2016/05/20(金) 01:06
目黒昭一郎

大学で出会った「マーケティング」を軸に、これまで企業での仕事と大学での講義や研究を続けてきました。

この50年弱の経験をベースに、マーケティングの「フレームワーク(考え方の枠組み)」をスキルのひとつとして身につけられるよう、お力になります。