確かに失業は強いストレスの要因の一つとして典型的なものです。みなさんは、このような「出来事」に出会ったことはありますか。これと並ぶ重大な出来事とは、自分の親や子供の死、愛する人の死や別離、肯定的なものとして昇進や転勤、結婚などもあげられます。そしてこのような出来事を人生の中で避けられないこともしばしばあります。
ところが、安心してください。自分にとって否定的で危機的な出来事が起こっても容易に乗り越えられるよう脳の仕組みが備わっています。
そもそも、人間の脳は危機的状況において自分自身が崩壊しないようにできています。具体的には、ショックがある程度の限度を超えると、それ以上自分に感じないようにリミッター(安全装置)がかかるようになっています。
一般的に、自分にとって危機的な事件が起こると、人は次のように反応していきます。
事件の当初、何が起こったか信じられず、「認められない」ということから始まり、次に「怒り」、次第にそれが自分の力ではどうしようもないと認めると「悲しみ」へ、最後は「落ち込み」へと変化してきます。そして、1か月程度落ち込みが続くのは当然のことです。そして、2ヵ月、3か月を過ぎると自然と元に戻っていくものです。
身体の一部(足や手等)を失った人を対象にした調査があります。普通の人にとってこのようなことは耐えがたいもので人生が終わったように感じるものです。実際、アメリカでベトナム戦争帰還兵の中で該当する人たちを対象にした調査です。その人達も直後の調査では人生を失ったというレベルの反応でした。ところが、1年後の調査の幸福度は平均値より少し下回る程度で、大きく落ち込んでいる人はほとんど見られなかったというデータがあります。
人間は強くできていますね。
震災のときのようにPTSD(心的外傷後ストレス障害)となった場合も、この脳のリミッターが強く働いています。そして、不幸な出来事の記憶そのものを自分の意識から消し去る(抑圧)という現象を引き起こします。ただ、その恐怖体験の記憶は完全に消されたわけでなく頭の隅に抑えつけた状態のため、別の機会に何らかのきっかけ(夢や小さな出来事)で、その記憶が呼び起こされ身体が勝手にパニックを起こす危険性があるのです。
そこで、PTSDの治療は、記憶を徐々に呼び起こし、怒り・悲しみ・落ち込みへと自分の気持ちを(時間をかけて)処理・整理していくことによって、自らの対処能力を高めていきます。
話を戻すと、このような重大事件は毎日起こるようなものではありません。映画の寅さんの失恋もせいぜい年に1回あるか無いかです。
そして、重大事件にはリミッターが効いているので、むしろ怖いのは、そのリミッターが効き出さない範囲の苦悩やストレスです。何故なら、そのような軽度なものは、毎日かたちを変えて起こっているかもしれません。しかし、軽度なものでもそれが蓄積することで心身に非常に負担を与えます。これは1990年代に研究によって実証されています。
例えば、毎朝の通勤電車の混雑、ずっと座った状態でパソコンと対峙する仕事、上司や顧客からの無理難題、帰宅後のギクシャクした家族関係などは、我慢できないほどではないですが、ストレートに、そして、確実に心的ダメージを与えています。
このダメージというのは何らかの病気になるということではなく、気力が萎え、集中力が低下し、怒りっぽくなるというものです。要は「頭が回らない」という状態です。
これは、普通の生活をする上では小さな問題のため放置されてしまいがちですが、仕事の生産性を非常に低下させてしまいます。分かりやすく言えば、「一向に仕事がはかどらない」という事態になるわけです。しかし、病院へ行くほどでもなく、まして休暇を取るということもなく普通に出勤して仕事ができる状態です。
実は、「ずっと座った状態での仕事」は睡眠障害と同じぐらいストレスの要因となるそうです。
この解決法の一つは、昼休みのストレッチ運動が効果的ということです。例えば、昼のラジオ体操は非常に効果的なものということです。
この「昼食休憩時のストレッチ運動」の効果測定は、日本の300名弱の化学会社に協力してもらってホワイトカラー、ブルーカラーの両方を対象に、ストレッチを「おこなわなかったグループ」と「おこなったグループ」を分け、血圧検査や各種心理テストを実施し、その効果をテストして検証されています。
あなたもじっと体を休めるだけでなく、身体を動かすストレッチをおこないませんか。それだけで血圧が変化していくのですから。