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苦しみから幸せは生まれない

心に「しなやかを」を 2017/08/31(木) 09:18

今年もお盆休暇での帰省のラッシュや高速道路の渋滞がテレビで放送されていました。新幹線のホームでインタビューを受けている故郷から帰ってきた人達の反応は、一様に充実感というか幸せ感がにじみ出ているように見えました。皆さんは夏季休暇を取りましたか?

実は帰省には「あなたがヒーロー(ヒロイン)になる要素」が含まれるのです。

 

文学史上、絶対にベストセラーになるストーリーがあると言われます。そのストーリーとは「少年から青年に成長するころ将来の夢と独立心の表れから、故郷を後にして旅立ち、その旅先で様々な苦難に直面しながらもそれらを乗り越え、大成し、やがて、故郷に帰ってくる」というものです。スターウォーズはこの典型ですね。このストーリー建てをすれば大ヒット間違いなしらしいです。

苦しみから幸せは生まれない


話を戻すと、皆さんの帰省はこのストーリーに重なるところが多々あるのです。少なくとも帰省先にいる両親からそのように見られているかもしれません。

とは言っても、3日も過ぎてくると日に日に待遇が落ちて行き、いずれヒーローは一般人となっていくものです。


休暇後に、いつもの日々が返ってくると、夏休みに帰省した日々が楽しく、幸せだったと感じる人が多くいることでしょう。では、「今の日常は幸せでないですか?」と問われると思わず「そんなことはないけど・・・」と答えたくなります。「でも、幸せという大仰なものではないけど、嫌ではない程度・・・。もうちょっと良いぐらいかな・・・」と歯切れの悪い反応かもしれません。

苦しみから幸せは生まれない

 

私を含め日本人は、「あなたは幸せですか?」という質問に対して、ストレートに「幸せです」と答えることに抵抗がある人が多いようです。しかし、英語圏の人たちの「幸福(Happiness)」という言葉の意味はもっと軽いようで、「充実してる」とか「満足している」という感じに近いかもしれません。

1990年代中盤まで心理学では「幸福というものは主観的なものであるために科学としては扱えない」と言われてきました。「幸福」は宗教や哲学の世界で古くから扱われてきました。そのためか「幸福」という言葉はどこか特別なものになってしまったのかもしれません。

ディナー博士が「幸福とは、人生に対する主観的満足感である」と定義し、幸福を測定可能なものにして、心理学の世界に幸福を科学として扱いだしました。

この研究で有名なものは、「年収四百数十万円を超えると幸福感とは比例しなくなる」「高齢者の方が20代の人達より幸福度が高い」「主観的満足度の100%の人より、80%程度の満足度の人の方が活動的である」というのがあります。

今の会社の中で「報酬(お金)の人を動かす力の低下」が起こる一方、低賃金のブラック企業から抜け出せないで働き続ける若者の気持ちを裏付けているような結果にも見えます。

その後、セリグマン博士が「幸福は満足度という単一の物差しで測れるものでなく複数の要素が重なり合って成り立つ。そして、何らかの結果が幸福に結びつくものでなく、幸福はプロセスそのものだ」というWell being理論というのを示しました。

ちょっと難しくなってしまったので、上の帰省の話を思い出してください。故郷から帰ってきて新幹線のホームを降りたとき幸せ感はあるかもしれませんが、それは故郷で過ごしてきたその間を思い出すことで幸な感じがしたのです。帰省した結果の「新幹線のホームに立つこと」で幸せを感じたわけではありません。

当たり前のように思えますが、故郷で過ごした「プロセス」が幸せ感を感じさせたのです。このプロセスとは、故郷の実家でした夕食の時の父や母の笑顔、はしゃぐ子供たちの声、同窓会で「久しぶり」という友人の見慣れた顔を見た瞬間のように、通り過ぎる一瞬一瞬のことを指します。

苦しみから幸せは生まれない


映画や小説は、この「プロセス」を楽しみます。推理小説は典型ですね。

ところで、今で幸福について「大学受験に受かれば幸福」「お金持ちになれば幸福」それまでは「苦しくても我慢。結果がすべてだ」と考えていませんでしたか?

入試に失敗すれば不幸は感じますが、大学に合格しても「よかった」と思う程度でそんなに幸福を感じません。むしろ新しい大学にワクワクしながら通い始めた新生活の日々の方が幸福だったかもしれません。やはり幸福はプロセスなのです。

こんなことを言う人がいます。「成功したから幸福のではなく、幸福だったから成功したのだ」この意味は、大学に合格したことで幸せになるのではなく、受験生活が充実し、やりがいのあるものだったので合格したのだということです。裏返せば、「辛く苦しいとだけ感じて受験生活すると入試に失敗するぞ」ということになります。

この傾向は創造的な仕事をしているとき、より顕著になります。そして、これには科学的な裏付けがあります。

辛さや苦しさ、不安ばかり感じていると、視野が狭くなり、思考も短期的になり、些細なことが気になって仕方なくなります。一時期に記憶力がよくなったりしますが、心身ともに緊張感が解けず、疲れやすかったり、疲れが取れないという状態になります。

一方、安らぎや感謝を感じたり、希望や誇りというポジティブ感情を日々感じながら過ごしていると、創造性が豊かになり、より全体像をとらえ、状況を正確に捉えることができるということが研究で分かっています。

さらにマネジメントの研究でも「良いプロセスで仕事をすすめれば高い成果を導きだす可能性が高い。一方、悪いプロセスである場合、悪い結果しか出ない事は誰でも知っている」というものがあります。

この「良いプロセスが良い結果をもたらす」「幸せ感を感じることがよい成果をつくる」ということは、昔の「耐え忍び、ひたすら努力した後にこそ成功がある」というような世界観の人からすれば反感を買いそうな考え方です。

苦しみから幸せは生まれない


実は、「忍耐や我慢強さ」という強みを持っている人がいます。その人は耐え忍ぶということは喜びであり、遣り甲斐を感じており、他者からは分からないけど、自分の中ではポジティブな状態となっているのです。

ポイントは、日々の過ごし方を自分にとってよい状態にすれば、将来の成果が大きく変わるということを意味しています。「よい状態」と言っても「何もすることなくテレビを見て一日を過ごす」ということではありません。無駄に怒ったり、悲しみに暮れたり、過剰な不安を感じるのではなく、いかに充実した日々にしていくかということが重要だということです。